
SQL Server Expressのインストールガイド
この記事では、Microsoftが提供する無料のデータベース「SQL Server Express」をWindows環境にインストールし、利用を開始するまでの手順を詳しく解説します。
1. SQL Server Expressとは?
SQL Server Expressは、Microsoftが提供するリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)である「SQL Server」の無料版です。学習、小規模なアプリケーション開発、テスト環境の構築などに最適で、本格的なデータベースの機能を体験できます。
商用利用も可能であり、小規模なWebサイトのバックエンドや、デスクトップアプリケーションのデータ保存先として広く利用されています。ただし、商用で利用する際には、以下の点に注意が必要です。
商用利用時の注意点
- リソースの制限: 利用可能なCPUコア数、メモリ、データベースサイズに上限があるため、大規模なデータや高い負荷がかかるシステムには向いていません。
- 機能の制限: 定期的なバックアップなどを自動化する「メンテナンスプラン」や、パフォーマンスチューニングツールの一部など、製品版にある便利な機能が利用できません。
- 高可用性構成の制限: サーバーの冗長化など、システムの停止時間を最小限に抑えるための機能がありません。
これらの制限から、Expressエディションは比較的小規模で、ミッションクリティカルではないシステムでの利用が推奨されます。
2. インストール前の準備
特別な準備は必要ありませんが、安定したインターネット接続と、インストール先のPCに管理者権限があることを確認してください。
3. SQL Server Expressのダウンロード
- Microsoft SQL Server Express ダウンロードページにアクセスします。
- ページを下にスクロールし、「Express」エディションの「今すぐダウンロード」ボタンをクリックします。
SQL2022-SSEI-Expr.exe
のような名前のファイルがダウンロードされます。
4. SQL Server Expressのインストール手順(カスタム編)
インストールする機能や認証方法などを細かく制御したい場合は「カスタム」インストールを選択します。ここでは、この「カスタム」インストールを選択した場合の手順を解説します。
- ダウンロードした
.exe
ファイルをダブルクリックして起動します。 - 「インストールの種類の選択」画面が表示されたら、「カスタム」を選択します。
- 「メディアの場所」を指定する画面が表示されます。これは、インストール用のファイルを一時的にダウンロードする場所です。特に理由がなければ、デフォルトのままで「インストール」をクリックします。
- 必要なファイルのダウンロードが開始されます。完了すると、自動的に「SQL Server インストール センター」が起動します。
- インストールセンターの左側のメニューから「インストール」を選択し、右側の「SQL Server の新規スタンドアロン インストールを実行するか、既存のインストールに機能を追加します」をクリックします。
-
「インストール ルール」の画面に進みます。ここではインストールの前提条件がチェックされます。
このとき、「Windows ファイアウォール」の状態が「警告」と表示されることがよくあります。これは「ファイアウォールが有効なため、他のPCからこのSQL Serverに接続するには、後で特定のポートを開ける設定が必要になる可能性がある」という通知です。インストール自体を妨げるものではないため、このまま「次へ」をクリックして問題ありません。
- 「ライセンス条項」の画面で、内容を確認し「ライセンス条項に同意します」にチェックを入れて「次へ」をクリックします。
-
「SQL Server 用 Azure 拡張機能」の画面が表示されることがあります。
これはSQL ServerをクラウドサービスであるAzureに接続するための機能です。ローカル環境での学習や開発が目的の場合は不要です。チェックボックスのチェックを外して、「次へ」をクリックします。
-
「機能の選択」画面が表示されます。ここでインストールするコンポーネントを選択します。
- データベース エンジン サービス: SQL Serverの心臓部です。データの保存、処理、セキュリティ保護を行うコアサービスであり、これは必ず選択してください。
- SQL Server レプリケーション: あるデータベースのデータを別のデータベースに複製(コピー)し、同期を保つ機能です。
- Machine Learning Services および言語の拡張: データベース内で直接PythonやRのスクリプトを実行できるようにする機能です。データ分析や機械学習に利用します。
- 検索のためのフルテキスト抽出とセマンティック抽出:
LIKE
検索よりも高度で高速なテキスト検索機能です。長い文章の中からキーワードで柔軟に検索したい場合に選択します。 - 外部データ用 PolyBase クエリ サービス: SQL Server内から、HadoopやAzure Blob Storageなど、外部にある様々なデータソースに対して直接クエリを実行できるようにする機能です。
- LocalDB: 主に開発者向けの、より軽量なSQL Server Expressです。設定不要ですぐに利用でき、アプリケーションに組み込んで使用するのに適しています。
通常の学習や開発が目的であれば、最低限「データベース エンジン サービス」にチェックが入っていれば問題ありません。「次へ」をクリックします。
-
「インスタンスの構成」画面が表示されます。ここで、SQL ServerをどのようにPC上に配置するかを選択します。
- 規定のインスタンス: 1台のPCに1つしかインストールできません。接続する際はPC名のみを指定します。
- 名前付きインスタンス: 1台のPCに複数インストールでき、それぞれに固有の名前を付けます。接続する際は「PC名\インスタンス名」という形式で指定します。
接続先名が変わるだけなので、1台のPCに複数インストールしない場合はどちらを選択しても構いません。今回は「規定のインスタンス」を選択します。これにより、接続する際はPC名(または `localhost`)のみで接続できます。「次へ」をクリックします。
- 「サーバーの構成」画面は、通常は変更不要です。そのまま「次へ」をクリックします。
-
「データベース エンジンの構成」画面が、最も重要な設定項目です。
認証モード
認証モードを選択します。
- Windows 認証モード: Windowsにログインしているユーザー情報を使って認証します。
- 混合モード (SQL Server 認証と Windows 認証): Windows認証に加えて、SQL Server独自のID(例:
sa
)とパスワードでもログインできるようになります。アプリケーションからの接続などで利用されます。
今回は「混合モード」を選択します。
システム管理者(sa)のパスワード
混合モードを選択すると、システム管理者アカウント
sa
のパスワード設定が必須になります。忘れないように、かつ、推測されにくいパスワードを入力してください。SQL Server 管理者の指定
「現在のユーザーの追加」ボタンを必ずクリックしてください。これにより、現在Windowsにログインしているあなた自身が、Windows認証でも管理者としてログインできるようになります。
設定が完了したら「次へ」をクリックします。
- これまでの設定内容の確認画面が表示され、「インストール」をクリックすると、最終的なインストールが開始されます。
- 「完了」画面が表示されたら、SQL Server Express本体のインストールは成功です。「閉じる」をクリックしてウィンドウを閉じます。
5. SQL Server Management Studio (SSMS) のインストール
SQL Serverを快適に操作・管理するためには、専用のツールである「SQL Server Management Studio (SSMS)」が必須です。
- 「SQL Server インストール センター」の画面から「SQL Server 管理ツールのインストール」を選択するか、直接SSMSのダウンロードページにアクセスします。
- 最新版のSSMSのダウンロードリンク(「手順 2 - インストールする SQL Server Management Studio のバージョンを決定する」の「SSMS 21 のダウンロード」など)をクリックして、インストーラーをダウンロードします。
- ダウンロードしたSSMSのインストーラー(
SSMS-Setup-JPN.exe
のような名前)を起動します。 - インストール場所を確認し、「インストール」をクリックします。
- インストールが完了したら、「閉じる」ボタンをクリックします。これでSSMSの準備も完了です。
6. 接続の確認
最後に、SSMSを使って、インストールしたSQL Server Expressに正しく接続できるか確認しましょう。
- Windowsのスタートメニューから「Microsoft SQL Server Management Studio」を探して起動します。
- 起動すると、「サーバーへの接続」ダイアログが自動的に表示されます。
- 「サーバー名」の欄に、お使いのPC名(例:
DESKTOP-12345
)またはlocalhost
と入力します。規定のインスタンスを選択したため、インスタンス名を付ける必要はありません。 - 「認証」は「Windows認証」のままで問題ありません。(`sa`アカウントで接続する場合は、ここで「SQL Server認証」を選択し、ログイン名とパスワードを入力します)
- 「接続」ボタンをクリックします。
- 接続に成功すると、画面左側の「オブジェクト エクスプローラー」に、接続したサーバーの情報(データベース、セキュリティなど)がツリー形式で表示されます。
7. 別のPCからSQL Serverに接続する(応用編)
別のPCからSQL Serverに接続するには、SQL ServerがインストールされているPC(サーバー側)でいくつかの設定が必要です。同じネットワーク内であればPC名で接続することも可能ですが、環境によっては接続できない場合があります。ここでは、より確実な方法であるIPアドレスを使った接続手順を解説します。
手順1: SQL Server側のIPアドレスを確認する
まず、サーバー側のPCのIPアドレスを調べます。コマンドプロンプトを開き、ipconfig
と入力してEnterキーを押します。「IPv4 アドレス」に表示される 192.168.x.x
のような番号がIPアドレスです。これをメモしておきます。
手順2: SQL Server 構成マネージャーの設定
- Windowsのスタートメニューを開き、「Microsoft SQL Server 2022」のフォルダ内にある「SQL Server 2022 構成マネージャー」をクリックして起動します。(バージョンによってフォルダ名が異なります)
- 左側のペインで「SQL Server ネットワークの構成」を展開し、「MSSQLSERVER のプロトコル」をクリックします。(MSSQLSERVERは規定のインスタンス名です)
- 右側の「TCP/IP」を右クリックし、「有効化」を選択します。警告が表示されたら「OK」をクリックします。
- 再度「TCP/IP」を右クリックし、「プロパティ」を選択します。
- 「IPアドレス」タブに切り替えます。
- 一番下までスクロールし、「IPAll」という項目を探します。
- 「TCP 動的ポート」の欄が空欄、「TCP ポート」に
1433
となっていることを確認します。違っていたら入力してください。 - 「OK」をクリックしてプロパティを閉じます。
- 左側のペインで「SQL Server のサービス」をクリックし、右側の「SQL Server (MSSQLSERVER)」を右クリックして「再起動」を選択します。
手順3: Windows Defender ファイアウォールの設定
- Windowsのスタートメニューを開き、「Windows管理ツール」(または「Windowsツール」)のフォルダ内にある「セキュリティが強化された Windows Defender ファイアウォール」をクリックして起動します。
- 左側のペインで「受信の規則」を選択し、右側の操作メニューから「新しい規則」をクリックします。
- 「規則の種類」で「ポート」を選択し、「次へ」をクリックします。
- 「プロトコルおよびポート」で「TCP」を選択し、「特定のローカル ポート」に
1433
と入力して「次へ」をクリックします。 - 「操作」で「接続を許可する」が選択されていることを確認し、「次へ」をクリックします。
- 「プロファイル」で、接続環境に合わせてプロファイルを選択します(通常は「プライベート」と「ドメイン」で十分です)。「次へ」をクリックします。
- 「名前」に「SQL Server (TCP 1433)」のような分かりやすい名前を付けて、「完了」をクリックします。
手順4: 別のPCから接続する
- すべての設定が完了したら、接続したい別のPCでSSMSを起動します。
- 「サーバーへの接続」ダイアログを開きます。
- サーバー名の欄に、手順1で調べたサーバー側のPCのIPアドレス(例:
192.168.1.10
)を入力します。 - 「認証」で「SQL Server認証」を選択し、ログイン名に「sa」、パスワードに設定したものを入力します。
- 「接続」ボタンをクリックして、接続できれば成功です。
8. セキュリティに関する重要な注意点
この記事で紹介した手順は、主にローカルネットワーク内での学習や開発を目的とした基本的な設定です。
もし、SQL Serverをインターネット経由で利用したり、実際の製品・サービスで運用したりする場合は、必ずセキュリティ対策を強化してください。具体的には、以下のような点を考慮する必要があります。
- 通信の暗号化: SSL/TLSを有効にして、第三者によるデータの盗聴を防ぎます。
- ポート番号の変更: 標準のポート
1433
は攻撃の標的になりやすいため、別の番号に変更することを推奨します。 - 強力なパスワード: 特に
sa
アカウントには、推測されにくい複雑なパスワードを設定してください。 - 最小権限の原則: アプリケーションやユーザーには、必要最低限の権限のみを与えるようにします。
これらのセキュリティ設定は、安全にデータベースを運用するために不可欠です。